米国株オプションを考え直すシリーズNo.2
この記事では、リスク許容度という面から、
リテール投資家(大衆個人投資家・トレーダー)と差別化し、
優位に立つことを考えます。
日本の米国株オプションの本
日本語の米国株オプションの本はそれほど多くはありません。
私が米国株オプションを知ったのは、
以下のパンローリングKAPPA氏の書籍でした。
超・株式投資 (Modern Alchemists Series No. 122) | KAPPA
この本の導入では、
市場は効率的であるという論拠からオプション取引の話題を始めています。
KAPPA氏によると、オプションのメリットは3つ挙げられます。
- 高いレバレッジ:
OTMのLEAPSコール買い - 株式を保有している場合の保険:
プロテクティブプット - プレミアムの獲得:
カバードコール、CSP(キャッシュセキュアードプット)、LEAPSダイアゴナル
確かに、と思うと同時に、
オプション取引の経験者は、素直にうなずけない面もあるのではないでしょうか。
高いレバレッジで大損した経験。
頻繁に保険で買ったプットがコスト損で終わった経験。
プレミアムをもらってお金を拾うつもりが、
原資産が急落し、プレミアム以上の損失が出た経験。
メリットに惹かれても、なかなかうまくはいかないことが多いです。
KAPPA氏も、このメリットはあくまでオプション紹介部分の記述であり、
それぞれについては、別ページで精査しています。
優位性のある取引にはリスク許容度の理解・把握が必要
「優位性のある取引をする」重要性は、
オプションだけでなくトレードで一般的に言われます。
しかし、エントリーやエグジットのルールといった戦術の部分や、
優位性のある状況の把握だけが「優位性のある取引」の要素なのでしょうか?
私は、リスク許容度の理解・把握とそれに合わせたポジションの設定が重要と
考えます。
それは、「最大損失〇%のリスクを取る」ということだけでは不十分です。
例えば、プットにより保険を掛けることのコストがかかりすぎると感じた時、
それは保険オプションのプレミアム支払いを検証する前に、
「保険を掛ける自分が株でどれだけの損失を許容できるか」ということの把握が、
大事なのではないでしょうか。
「損失状態をまったく許容できない」という時、
それはオプションのせいではなく、
自分のリスク許容度に無自覚的に、株投資で不向きな投資行動をしていることに
気づく必要があるのではないでしょうか。
自分のリスク許容度を把握していなければ、
どんな時でも大きなヘッジコストを継続的に進んで支払う行動を続けてしまいます。
投資・トレードでは、含み損を含めて、損失が出る時が必ずあります。
そのとき、自分の許容できる損失・リスクを超えると
不合理な行動を取ってしまいます。
・・・その不合理は誰かの飯のタネです。
損失や許容リスクの把握は、不合理な行動が出ないよう絞る蛇口のようなものであり、
非常に重要な概念であることが分かります。
オプショントレードでの大衆的行動
オプションで最も大衆的な投資行動は何でしょうか。
その一つは、ミーム株のコールを大量に買うことでしょう。
一攫千金の名のもとに、大きなリスクと不利なコスト(高いIV含む)を支払います。
もちろん当たって勝ち逃げはありうる。
しかし、死屍累々です。
ここではリスク許容度は置き去りにされています。
大量の保有コールが無価値になった時、その損失を見て後悔することで気づくのです。
S&P500指数は上昇相場になると長く続きます。
そのチャートを見て、
「SPYのLEAPSコールをしこたま買っておけば・・・」と多くの人が思います。
しかし、どの程度の含み損や最大損失を許容できるでしょうか。
コールをしこたま買っておけば、
含み損も一気に大きくなる局面になった時、
リスクを許容できないことに初めて気づいて、持ち切れません。
リスク許容度の理解を深めるいくつかの観点
投資・トレードアイデアをきちんとした投資行動の利益として実現するために、
ここで、リスク許容度において役立ついくつかの観点があります。
レバレッジ
まずは、レバレッジの観点です。
「レバレッジで必要資金が圧縮できる」という考え方があります。
一方で、「同じ運用資金でもレバレッジ分だけ価格変動が倍増する」
という危機意識も生じます。
DITM(ディープインザマネー)のコールを買えば、
レバレッジ5倍程度まで掛けられるでしょう。
インデックスの5倍のリターンが得られるといえば聞こえはいいですが、
価格変動も5倍になるといえば、それを許容できる人は多くありません。
そのため、欲張ってそこまでのコールを買わないことが肝要ですが、
そのための安全対処は、自分のリスク許容度の理解があって初めて行える行為です。
最大損失
次に、最大損失の観点です。
DITM(ディープインザマネー)のコールは、
OTM(アウトオブザマネー)のコールよりも最大損失は大きくなります。
「無価値になりうるオプションに対して、それほどの最大損失は許容できるか」
という視点です。
今ITM(インザマネー)で本質的価値を持っていても、
今後そうであるかは分かりません。
最大損失は、リターンを狙う限り決して小さくなりません。
優位性のある満期・権利行使価格を考えつつも、
最大損失を調節するため、オプションの特性を考えつつ、
プレミアムの価格や権利行使価格の選定をします。
この部分でリスク許容度の自己理解が必要です。
(最大損失が資金管理的にどうなのかについては、シリーズ記事の続編で書きます)
一時的損失が発生した場合
そして、一時的な損失が発生した場合の観点です。
最大損失と区別するのは、
最大損失が「最悪なケースに対するリスク許容度」であるのに対して、
一時的な損失は「ポジションの保有継続に影響するリスク許容度」であるからです。
「オプションの裸買いは損失限定だから、
保有を継続してもストップロス注文が必要なく、継続保有できる」
ということが教科書的に言われることがあります。
しかし、これは個々のリスク許容度によって変わります。
満期や保有するポジション量によっても変わります。
私のケースになるのですが、
コールの裸買いでロットが大きくなると、
継続保有せずすぐ損切りしてしまうことが多いです。
重要なことなのですが、
「一時的な損失の対応を個々人が自分に合うよう調節できた場合、
パフォーマンスは大きく改善する」と考えます。
おわりに
以上、SPYのLEAPSコール買いを例に、
リスク許容度理解のための観点を3点挙げました。
オプションが難しいのは、
「単純に損切りラインと利食いラインを決めて、それに合わせたロットにすればいい」、
「ファンダメンタルを精査したら、期限を決めず長くもてばいい」とはならず、
個々のリスク許容度から、オプションのスプレッドや満期、
権利行使価格を絞り込まなければならない点があると思います。
大衆投資家から一歩差をつけるとすれば、
「非合理な行動を極力減らす」ことが一つの支軸になりえます。
リスク許容度の自己理解を深めることは、その支軸を強固にします。