破産をしないための資金管理
資金管理というと、破産をしないための資金面のリスク管理がよく述べられます。
よく使われるものに、
「運用資金の〇%を1回あたりの最大損失とする」ルールがあります。
あるいは、現物株を数銘柄に分散させ、1銘柄の価値がゼロになったとしても、
大部分の資金が守られるような状況を作ります。
複数ポジションの負荷を測る資金管理
しかし、資金管理では、ポジションの大きさから生まれる負荷を定量的に扱うことは、
個人投資家・トレーダーではあまり体系立てられていないような気がします。
特に、複数銘柄を異なる時間軸で同時取引していた場合、
感覚的に合うように、うまくバランスさせる方法もあまり述べられていません。
「運用資金の10%を1回あたりの最大損失とする」というのは、
FXではとても大きい損失であり、そのロットは大きいものとなりますが、
個別株では十分ありうる範囲であり、
むしろ分散投資でその程度に抑えられればリスクはコントロールされています。
FXならFXのデイトレに絞り取引していれば、
ポジションの大きさを「運用資金の何パーセントを最大損失にするか」で
はかるというのは理にかなっています。
しかし、同時にFX以外に株のスイングを行っていた場合、
どのようにリスクの整合性を取るのがよいでしょうか。
結論から言うと、正解はないと考えます。
取引する個々人のリスク感覚によって、各銘柄のポジション量を調節するのが、
最終的な結論です。
しかし、ポジションの大きさを定量的につかむ術はいくつかあり、
それを同時に見比べることで定量的に比較できます。
それは、それほど難しいことではありません。
定量的な資金管理を行うための手段
1.パーセント最大損失
一つ目は、先ほど出た「運用資金の何パーセントを最大損失にしているか」です。
ここを間違わない限り、どれだけレバレッジをかけていたとしても、
(ブラックスワンやテールリスクが発生しなければ)リスク管理を行うことができます。
非常に重要な要因のため、どのポジションを持ったとしても、想定・設定すべき内容となります。
2.レバレッジ
二つ目は、「証拠金に対するレバレッジ」と「運用資金に対する実効レバレッジ」です。
例えば、運用資金100万円に対して、証拠金10万円をそこから拠出し、
売買代金100万円のゴールドの証拠金取引をした場合、
証拠金に対するレバレッジは10倍、運用資金に対する実効レバレッジは1倍です。
さらに、別途証拠金10万円を運用資金から出し、
売買代金100万円のFXの証拠金取引をした場合、
その証拠金に対するレバレッジは10倍です。
運用資金に対する実効レバレッジは、
2つのポジションの売買代金合計を運用資金で割ったものとなるので、
1倍ではなく2倍となります。
このように、レバレッジのかかった複数ポジションを持つことになった場合、
運用資金に対する実効レバレッジを忘れずにいることで、
どれだけの資金効率性(≒レバレッジ)を総ポジションで持っているか管理できます。
実効レバレッジがかかると、最大損失を設定したとしても、
長期のポジション保有が本質的に難しくなります。
「レバレッジのかかった短期売買に中毒状態になり、長期保有ができない」という
悩みを私も持ちましたが、
実効レバレッジを1倍に近づけて減らすというのは、
その悩みの解決に大きく役立ちます。
3.想定利益・損失率
3つめは、「証拠金・銘柄資金に対する想定利益率・想定損失率」と
「運用資金に対する想定利益率・想定損失率」です。
現物株の場合で、10銘柄に銘柄分散をしたとした場合、
1銘柄は運用資金の10%となります。
もし、ポートフォリオの1社が倒産した場合、運用資金の10%の株が紙くずとなります。
その場合、90%の資金が残ることが想定されます。
銘柄資金に対する想定損失率は100%ですが、
運用資金に対する想定損失率は10%となります。
反対に、1銘柄の株が倍となった場合、運用資金は10%増えます。
銘柄資金に対する想定利益率は100%ですが、
運用資金に対する想定利益率は10%となります。
このように、銘柄の分散性を定量的にとらえることができます。
銘柄の分散性は、全体の安全性を取りつつ
パフォーマンスを低くすると捉えがちですが、
次のような例もあります。
「運用資金の10%を証拠金として3倍のレバレッジをかけ、
証拠金に対して年100%の利益を出した。
他の資金は万が一のための現金として保有した。」
この場合、
銘柄資金に対する想定利益・損失率は100%ですが、
運用資金に対する想定利益・損失率は10%となります。
これだけでは、運用資金に対しては年利10%程度と、
決して高いパフォーマンスではありません。
しかし、もし現金のうち80%を株価指数インデックスに投資していたらどうでしょうか。
現物株から運用資金に対して年8%のリターンを出せたとします。
すると、証拠金に対してレバレッジをかけた「攻め」の戦略と、
「保守的な」現物株の戦略のパフォーマンスの合計で18%出せることになります。
攻めの戦略が成功した場合、
全体のパフォーマンスは現物株のみの8%の倍を超えることになります。
反対に、「攻め」の戦略が完全に失敗し、証拠金を全部失い、
現物株のリターンだけになったとしても、8-10=-2%で済みます。
実効レバレッジは1.1倍(10%*3倍+80%*1倍)です。
決して、高いレバレッジではありません。中期・長期保有も可能でしょう。
この資金管理法のメリットは、
実効レバレッジを低く抑えているにもかかわらず思い切った戦略を取ることができ、
成功すれば全体のパフォーマンスが倍になることです。
攻めているのでリスク自体は何も抑えていませんが、
資金管理ができているからこそということです。
また、想定利益・想定損失を把握することで、
リスクリワードを定量的にコントロールするとっかかりができます。
これに対して、勝率はどれくらいであればトータルプラスにできるのかなど、
自分の売買を現実的に見直す基準を作りやすくなります。
4.日次損益変動
4つ目は、「日次損益変動の管理」です。
損益変動から負荷を定量的に知る際に便利な方法です。
ある株を現物200株、FXでドル円を10000通貨ロングで持っているとします。
ここで、ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)インジケータで、変動を確認します。
株は一日で50円、ドル円は0.8円変動していることがわかったとします。
すると、損益変動は1日で、
株は50*200=1000円
FXは0.8*10000=8000円
変動しうることが分かります。
株とFXのポジションを比べると、FXの方が変動が激しいことが分かります。
激しいから悪いということではなく、
「ポジションを持ちすぎていないか」「望んだ変動に抑えられているか」という、
視点からのポジション管理に役立てます。
日経225オプションは短期売買が多くあまり役立てることはできませんが、
米国株オプションで数週~2年の場合は、同様の管理をすることができます。
ある米国株銘柄のATRが一日5ドル変動し、
保有しているオプション1枚の現在のデルタが0.5である場合、
その損益変動は5*0.5*100=250ドルとなります。
100をかけるのは米国株オプション1枚あたり100株に相当するためです。
日次損益変動を算出することで、
毎日のポートフォリオ管理がしやすくなります。
すべてのポジションが順行した場合、1日どれだけお金が増えるのか、
逆に逆行した場合、1日どれだけお金が減るのかを把握できます。
ポートフォリオというと、株の話がメインになりますが、
レバレッジをかけたFX・CFD・先物も組み込んで管理ができるということになります。
「資金が余っていても、許容した日時変動以上は精神的負荷が大きいので
ポジションを増やさない」
といった工夫も行うことができます。
(繰り返しますが、最大損失以上には減らさないことが肝要です。)
おわりに
以上が、ポジションの大きさを定量的につかむ術となります。
ポジションを持った時、上記四つの数値をすべて並べて書いてみます。
そして、同じように書かれた他の保有ポジションを見比べたり、
実効レバレッジ全体を把握してみたりします。
面倒かもしれませんが一旦、習慣化してしまえば、
今まで以上にポジション管理がしやすくなったことを
実感できるかと思います。
ぜひお役立てください。